前回は「ビックデータ」をテーマとして発信し、身近な活用例を交えてご紹介しました。
様々な企業は多くのデータを保持しています。企業はこれらのデータを分析・活用し、顧客ロイヤリティの向上やサービスに対する満足度向上など様々な取り組みを行っています。
しかし、近年では2018年2月6日にヤフー株式会社(以下「ヤフー」)が、ヤフーの持つビッグデータにより顧客企業のあらゆる活動を支援する実証実験を開始していることなど、企業内だけの利活用ではなく、外部の企業にも提供するという動きを見せています。*1
そこで、第三回目となる今回は、ビッグデータの利活用とも密接な関係にある「オープンAPI」についてご紹介します。
オープンAPIとは?
APIとはアプリケーション・プログラミング・インタフェース
(Application Programming Interface)の略で、アプリケーションの機能を他のアプリケーションでも利用できるようにするためのインタフェースの仕様とされています。
自社内のアプリケーション開発を効率化する用途でのAPI利用は以前から存在していましたが、近年では自社で開発・運用しているサービスに「外部から連携できるよう、APIを公開する」動きがみられ、これを“オープンAPI”と位置付けています。
全国銀行協会「オープンAPIのあり方に関する検討会報告書―オープン・イノベーションの活性化に向けて―【中間的な整理(案)】(平成29年3月16日)にはこのように記載されています。
API(Application Programming Interface)とは、一般に「あるアプリケーションの機能や管理するデータ等を他のアプリケーションから呼び出して利用するための接続仕様等」を指し、このうち、サードパーティ(他の企業等)からアクセス可能なAPIが「オープンAPI」と呼ばれる。
イメージが湧きますでしょうか?少し難しいですよね。
イメージしやすいよう、私たちに身近な例を用いてご説明します。
身近に使われているAPI
日本において、スマートフォンやパソコンなど、個人におけるモバイル端末の所有割合は84.0%*2にも上ります。
私たちはモバイル端末を利用し、日々の生活の中で特段意識をすることなく、多くのAPIに触れて生活しています。
身近な例として、「LINE」、「Facebook」、「Twitter」、「Google Maps」、「YouTube」、「Amazon Echo」などのコミュニケーションツールやSNS、スマートスピーカー、その他にも多くの企業がAPIを公開し、様々なサービスと連携してユーザへ提供しています。
これらとは別のサービスを利用していたら、これらのサービスと連携するような機能・画面を見た、という経験がある方も多いのではないでしょうか。
では、企業がAPIを公開することによる効果はどのようなものがあるか、例を見てみましょう。
効 果 | 効果が得られる背景 |
---|---|
①オープンイノベーションの促進 | APIを公開することにより、様々な業種の様々な職種の人が自社のサービスにアクセスすることができるようになり、自然と新たな利用方法を考えてもらうことが可能になる。結果として、自社では想定もしていなかったような新しいアイデアが生まれる可能性がある。 |
②既存ビジネスの拡大 | APIを公開していない場合と比較して、リーチ可能な顧客層が大きく増える。潜在顧客としても想定していなかった層が自社サービスを利用する可能性もある。また、公開したAPIの利用者に課金をすることにより、自社のデータやシステムを新たな収益源とすることができる可能性がある。 |
③サービス開発の効率化 | 自社が公開することの直接的な効果ではないが、APIを公開する企業が増えれば、既に世の中に存在する機能をAPIとして利用することで開発コストを抑制しつつ迅速な新規サービスの開発が可能になる。 |
(出典) 総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)
ここで一つ、飲食店を探す場合、お店情報検索サイトなどを利用するシーンを想定して解説します。
条件を入れて希望のお店を見つけた後、「地図」などからお店の位置を確認する際に地図データが表示されているケースが多いと思います。図中のB社が地図データを一から作ることは、非常に多くの労力や費用が発生してしまいますが、APIで連携することにより、位置情報については他社サービスを利用することができ、これらにかかる労力や費用を限りなく少なくすることが可能となります。
金融分野におけるAPI公開
金融分野においてもAPI公開が進められてきており、総務省の「平成30年度情報通信白書」では、次のように説明されています。
高度なセキュリティを求められる銀行を始めとする金融機関においても銀行法改正によるAPI公開の動きがある。
(中略)
金融機関においてAPI公開が進められてきた背景には全世界的なFinTech事業者の台頭がある。家計簿アプリや貯金アプリ等のFinTechサービスは、ユーザの利便性を飛躍的に向上させるものであり、今後も新たなサービスの登場が期待される。しかし、FinTech企業と金融機関の連携には利用者保護やオープンイノベーションの促進の面で課題があった。金融機関がAPI公開を公開していない場合、FinTech事業者がユーザの金融機関のサービスへのログインIDやパスワードを取得し、代理でログインして情報を取得する為、利用者保護の観点から課題がある。また、FinTech事業者が代理ユーザとしてログインした場合は、金融機関のウェブページの情報をウェブスクレイピングという技術によって取得する。この技術はウェブページの構造をもとに情報を読み取るため、金融機関ごとに別のプログラムが必要になる、ウェブページ構造が変わるたびにプログラムの修正が必要になる、という非効率性が存在し、オープンイノベーションが進みにくい状況であった。
金融機関とFinTech事業者のAPI接続が進むことによって、利用者は金融機関におけるID等の情報をFinTech事業者に開示することなく、FinTechサービスを利用することができるようになり、利用者保護上の懸念が解消される。また、金融機関や関係者で連携して取りまとめた標準規格に則りAPI公開を進めることで、FinTech企業と金融機関との連携の効率性が向上し、オープンイノベーションが促進されることが期待されている。
( 出典 ) 内閣府 第272回消費者委員会本会議 資料1-4
APIで複数の情報を組み合わせた新たなサービス
Web上に公開されている情報を組み合わせ、加工・編集して新たなサービスとすることを「マッシュアップ」といいます。
その一例として、宮崎県の情報政策課が開発・公開している「ひなたGIS(地理情報システム)」では、以下のような様々なAPI等の情報を組み合わせ、ウェブサイトで情報提供しています。
・RESAS-API
・e-Stat API
・気象庁から得た現在の気象情報
・高速道路・道の駅の情報
・宮崎オススめし、レジャー情報
(出所)ひなたGIS 宮崎県 https://hgis.pref.miyazaki.lg.jp/hinata/
おわりに
これまで述べてきたようにAPIを公開し、上手に活用することで企業側と利用者側の双方に多くのメリットが生まれます。このようなAPIによる様々なテクノロジーの繋がりをベースとしてサービスや価値が提供される経済の仕組みは「API経済圏」と呼ばれています。今後も様々なサービスが開発・提供されていく中で、オープンAPIを利用したサービスは企業の更なる発展と、利用者の更なる利便性の向上につながることでしょう。今まで欲しいと思っていたサービスがAPIを利用して提供される将来は、遠くないのではないでしょうか。
*1 参考:ヤフー株式会社 プレスルームの記事(2018.2.6)
*2 出典:総務省「平成30年度版 情報通信白書」.