今回は、内閣府が提唱する”Society5.0”の内容をわかりやすく解説させて頂きます。
先日、公開しました記事「(第四回)デジタル・トランスフォーメーション(DX)」「(第五回)2025年の崖」との関連性についても分かりやすくご紹介します。
新たな社会”Society5.0″
Society 5.0は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されたものです。
日本政府は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を目指すものとして力を入れています。
これまで、第1期(平成8~12年)、第2期(平成13~17年)、第3期(平成18~22年)、第4期(平成23~27年)の基本計画が策定され、平成28年1月22日に平成28~32年の基本計画にあたる、第5期科学技術基本計画が閣議決定されました。
新たな社会”Society5.0″とは
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
Society 5.0では、平成7年に制定された「科学技術基本法」によって日本政府が科学技術基本計画を策定し、長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行することとしています。
この基本計画では以下の4本の柱が掲げられており、「未来の産業創造と社会変革」としてSociety 5.0の推進が明示されています。
引用:内閣府『科学技術基本計画』
Society 5.0で実現する世界
「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」を「超スマート社会」と定義し、世界に先駆けた超スマート社会「Society 5.0(ソサエテイ 5.0)」の実現に必要となる取組が示されています。Sciety 5.0は、IoT(Internet of Things)、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータ等の新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れてイノベーションを創出し、一人一人のニーズに合わせる形で社会的課題を解決する新たな社会の姿です。
私たちを取り巻く現代社会は、インターネットの発展とスマートフォンの普及等により、大量の情報が溢れています。これらの中から必要な情報を見つけ、分析し、共有することは人間の力では不可能な領域にまできています。さらに、日本国内の社会問題として少子高齢化や地方過疎化などがあり、労働人口が減りつつある状況です。このような課題に対応するために、社会の利便性を向上し、人的負担を軽減する方法として、IoTやAI、クラウドコンピューティング、ドローン、自動走行車、無人ロボットなどの活用の推進を推奨しているのです。
Society 5.0のしくみ
Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現します。これまでの情報社会(Society 4.0)では、人間がサイバー空間に存在するクラウドサービス(データベース)にインターネット経由でアクセスし、情報やデータの入手、分析を行ってきました。
Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、この膨大な情報(ビッグデータ)を人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされます。今までの情報社会(Society 4.0)では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。一方、Society 5.0では、膨大なビッグデータをAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまで実現できなかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになるのです。
経済発展と社会的課題の解決を両立するSociety 5.0へ
現代社会は経済発展が進み、生活は便利で豊かになり、エネルギーや食料の需要が増加し、寿命が延伸し、少子高齢化が進んでいます。
また、経済のグローバル化が進み、国際的な競争も激化し、富の集中や地域間の不平等も生じてきています。
このように世界が大きく変化する一方で、IoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術の開発が進展しています。日本は、少子高齢化、エネルギー等の制約、自然災害のリスク等の課題を有する課題先進国として、これら先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会「Society 5.0」の実現を目指しています。
(内閣府資料を基に当社作成)
Society 5.0による、新しい価値創出の事例
それでは、実際に新しい社会ではどのようなものが実現可能となるのでしょうか。
事例1:交通
自動車のIoT化(コネクテッド化)の進展に伴い日本全国の道路を走っている自動車の間のデータのやり取りによる1つの大きなネットワークを形成し、様々なセンサーから取得する情報や天気、交通、宿泊、飲食といったタイムリーな情報と過去の行動履歴などの蓄積データをデータベースとして管理し、これらをAIに解析させることにより以下のような交通社会を実現します。
- 自動運転で渋滞・事故なく快適に移動
- 天気や渋滞情報を考慮した最適なルートや移動計画の提供カーシェアや公共交通を組み合わせたスムーズな移動
- 高齢者や障害者の自立型車いすを使った一人での移動
- 一人ひとりの好みに合わせた観光ルートの提供
- 地方活性化や消費拡大
- CO2の排出削減による地球温暖化の抑止
事例2:医療・介護
個人ごとのリアルタイムな生理計測データ、医療現場の情報、医療・感染情報、環境情報などの様々な情報をAIで解析することで、次のような医療社会を実現します。
- ロボットが一人暮らしの高齢者の生活支援をしたり話し相手となる
- 医療ロボット及び介護ロボットによる支援で傷病者の負担を軽減
- 医療データをビッグデータとして共有することにより、どこでも最適な治療を受けることが可能となる
- リアルタイムな自動健康診断により健康促進や病気の早期発見
事例3:ものづくり
顧客や消費の需要、在庫情報、配送情報など、様々な情報を含むビッグデータをAIに解析させることで、以下のようなものづくり社会を実現します。
- 今まで取引のなかった他分野や他系列のサプライヤーを連携させることで、ニーズに対応したフレキシブルな生産計画や在庫管理を実現
- AIやロボット活用、工場間連携による生産の効率化、省人化、熟練技術の継承(匠の技術のモデル化)、多品種少量生産の実現
- 異業種協調配送やトラックの隊列走行などによる物流の効率化
- 顧客や消費者のニーズに沿った安価な品物を納期遅れなく入手できるしくみの実現
事例4:農業
農作物の生育情報、市場情報、食のトレンドやニーズ、気象情報などさまざまな情報をAIに解析させることで、新たな農業社会を実現します。
- ロボットトラクタによる農作業の自動化・省力化、ドローン等による生育情報の自動収集、天候予測や河川情報に基づく水管理の自動化・最適化などによる超省力・高生産なスマート農業の実現
- ニーズに合わせた収穫量の設定、天候予測に合わせた最適な作業計画、経験やノウハウの共有、販売先の拡大などを通じた営農計画の策定
- 消費者が欲しい農作物を欲しい時に入手できる環境の実現
- 自動配送車などにより欲しい消費者に欲しいときに農産物を配送できるしくみの実現
事例5:食品
個人のアレルギー情報、食品情報、各家庭の冷蔵庫内の食品情報、店舗の在庫情報、市場情報といった様々な情報を含むビッグデータをAIに解析させることで、社会全体の食糧ロスの軽減や食品産業の競争力の強化を実現します。
- アレルギー情報や個人の嗜好に合わせた食品の提案による購入の利便性向上
- 冷蔵庫内の食材管理が自動でなされ、必要な分だけ発注・購入を可能とすることによる食品ロスの削減
- 家族の嗜好や日々の健康状態などに合せた料理の提案を受けられることによる快適な食事の実現
- 生産者や店舗の顧客ニーズに合った生産・発注・在庫管理の実現
事例6:防災
人工衛星、気象レーダー、ドローンによる被災地観測、建物センサーからの被害情報、自動車からの道路被害情報といったさまざまな情報を含むビッグデータをAIに解析させることで、次のような防災社会を実現します。
- 被害状況を踏まえ、スマホ等を通じて一人ひとりへ避難情報が提供され、安全に避難所まで移動すること
- アシストスーツや救助ロボットにより被災者の早急な発見と罹災した建物からの迅速な救助
- ドローンや自動配送車などによる救援物資の最適配送
- 社会全体としての被害の軽減や早期復興
Society 5.0の波に乗る
政府推進のSociety 5.0は着実に実現へと向かおうとしており、その取り組みはあらゆる企業に必要不可欠なものと言えます。
Society 5.0では新しい技術の採用により、既存のビジネスのあり方を大きく変えるかもしれません。そして、多くの企業にとってビジネスモデルの変革などを伴います。Society 5.0で実現した社会は、将来に渡る日本の基礎となるものであり競争力強化の源泉とも言えるでしょう。
Society 5.0を実現するには、DX(デジタル・エクスチェンジ)の対応が必要となり、Society 5.0を見据えた対応が求められてきます。
新たな価値で経済発展と社会的課題の解決を両立
イノベーションで創出される新たな価値により、地域、年齢、性別、言語等による格差がなくなり、個々の多様なニーズ、潜在的なニーズに対して、きめ細かな対応が可能となり、モノやサービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供されるとともに、社会システム全体が最適化され、経済発展と社会的課題の解決を両立していける社会となります。
Society 5.0による人間中心の社会
これまでの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。Society 5.0では、ビッグデータを踏まえたAIやロボットが今まで人間が行っていた作業や調整を代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになります。
Society 5.0は、一人一人の人間が中心となる社会であり、決してAIやロボットに支配され、監視されるような未来ではありません。
先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、イノベーションから新たな価値が創造されることにより、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会「Society 5.0」を世界に先駆けて日本は実現していこうとしています。
さいごに
経済発展と社会的な課題に対する対応として、次世代の日本が向かうべき指針が内閣府より発表されており、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が中心となり、第4次産業革命を推進しSociety5.0を実現するために産業界と共にOne Japanとして推進しています。
我々の10年後、20年後の未来に向かって新たな一歩を歩みだす時期となりました。
今後とも岡三情報システムのThe Evangelistを宜しくお願いします。
【参考資料】内閣府ホームページhttps://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html